<監督>
監督:岩井俊二
1963年1月24日生まれ、宮城県出身。
1993年、オムニバスドラマ『ifもしも~打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』で、日本映画監督協会新人賞を受賞。
個人的には『花とアリス』が名作!
『スワロウテイル』や『リリィシュシュのすべて』も好き。
<解説>
岩井俊二監督が、長編実写の日本映画としては「花とアリス」以来12年ぶりに手がけた監督作。「小さいおうち」で第64回ベルリン国際映画祭の銀熊賞を受賞した黒木華を主演に迎え、綾野剛、Coccoらが共演する。
SNSで知り合った鉄也と結婚することになった派遣教員の皆川七海は、親族が少ないため「なんでも屋」の安室に結婚式の代理出席を依頼して式を挙げる。
しかし、新婚早々に鉄也が浮気し、義母から逆に浮気の罪をかぶせられた七海は家を追い出されてしまう。そんな七海に、安室が月給100万円という好条件の住み込みのメイドの仕事を紹介する。
そこで知り合った破天荒なメイド仲間の里中真白と意気投合した七海だったが、真白は体調がすぐれず日に日に痩せていく。そんなある日、真白はウェディングドレスを買いたいと言い出す。
(映画.comから引用)
<これから観る方への感想・ネタバレなし>
これまで岩井俊二作品を観たことがある人なら、
もう必見の作品で説明不要かと。
Amazonプライム・ビデオで出ているし、どんな作品なんだろうと思われている方などに。
一言でいうと、
とっても柔らかくて、いい意味で邦画的、岩井俊二ワールドと呼ばれる、
光の加減、撮影の確度、ストーリーの巧妙さ、
好きな人は好き。
(嫌いな人は避けて通る・・・)
私はですね、大好きなんですよ。
「リップヴァンウィンクル」って何か?
どこかの雑貨屋のような名前ですが、これはアメリカの作家ワシントン・アーヴィングによる短編小説の名前です。
日本では浦島太郎に似ているストーリーです。
ちなみにとっても長いです(笑)
長いですが、“心に残るもの”があるはずです。
それは“人によって違うもの”になります。
美しく切り取られた岩井俊二の世界、あなたのハートにはいったい何が残るでしょうか?(木村奈保子風)
<ネタバレ感想>
※この後下にはネタバレ感想注意※
ストーリー構成としては大きく4つのカテゴリに分けられるかなと思います。
■第1章:皆川七海(黒木華=クラムボン)の結婚と顛末
主人公の七海は正式採用を目指して中学校の臨時教師をしていましたが、
生徒たちの悪ふざけがきっかけで仕事をクビになります。
授業中に声が小さいからマイクを使えと。そして1回の過ちでクビという、上司も冷たいやつです。
登校拒否の一人の生徒だけが七海を信頼し、ネットを介しての授業を続けることになりました。(はじめ家庭教師してるのかと思ってた・・・)
プライベートではSNS(お見合いサイト)で彼氏を見つけて、スムーズにゴールイン。
SNSでのハンドルネームが“クラムボン”なんですね。
“ワンクリックで買い物をするよう”に、あっさり手に入った恋であり、
愛情が本当にあるのかどうかもわからないまま、七海は結婚することになりました。
七海の両親は離婚しており、結納のタイミングではそれを隠します。
また結婚が決まったものの、七海の友人が少ないことで披露宴の席が埋まらず、
困った七海は「なんでも屋」の安室(綾野剛)に、代理出席サービスを頼むことになりました。
そして結婚式当日。控室で旦那から、クラムボンが七海ではないかと投げかけてきます。
七海は動揺しながらも白を切りました。無事に式は終わり新婚生活が始まります。
しかし、会話も含めてちぐはぐで、なんともしっくりこない新婚生活。
ある日、部屋の中で女物のピアスを見つけた七海は、再び安室に会い、浮気調査を依頼します。その後しばらくして、七海の旦那と、自分の彼女が浮気しているという男が急に部屋に押しかけてきます。
相手は、同窓会で再会した元生徒で卒業アルバムを使い確認します。
数日後、浮気相手の恋人の男から、ホテルに呼び出される七海。
恋人と別れたという男は、体で償えと七海を抱こうとします。(なんでや?!)
トイレに逃げ込み、安室に助けを求めたところ、
「アムロ、いきまーす」とガ〇ダムお馴染みのメッセージを受けて、安室が登場。
男を追い払ってことなきを得ます。
なお、この浮気男と安室はグル。ビデオにきっちり現場を録画して、
その後、七海の旦那と母親に送り付けます。
後日、旦那の実家で葬式があり、七海も旦那の実家に帰省します。
法要後、何故か結婚式の代理出席や、両親の離婚などの七海の嘘を知っていた義母は彼女を問い詰めた上、先日のホテルでの動画を突き付けられ、浮気の疑いをかけられました。
同様で頭の整理できていない七海に対し義母は、二度と旦那に会うなと、
七海の実家までのタクシー代を渡し家から追い出すことに。
七海は世田谷の家に行き先を変え無事帰りますが、その後激怒した旦那から電話で「今日中に出ていけ」と離婚を突き付けられます。
逆に相手の浮気を問い詰める七海ですが、
なぜか卒業アルバムに載っていたはずの旦那の浮気相手は写っておらず、
離婚を突き付けられたうえ、旦那は実は浮気などしていなかった可能性が大きく高まり動揺が止まりません。
旦那の浮気相手の彼氏とやってきた男はなんだったのか・・・
SNSのハンドルネーム“ランバルラ”が招待でした。
つまり、すべて安室が仕組んだ可能性が考えられますが、七海は知る由もありません。
家を出た七海が途方に暮れていると、安室から電話が来ます。
七海は行く当てもなく歩いていました。
「いま、どこですか?」と問う安室に、
「ここ、どこだろう、ここ、どこですか?」と泣き始めます。
他に頼れる相手もない七海は、路頭に迷っていることを安室に話しました。
七海は流れついたビジネスホテルを寝床にし、
「仕事、ないですか?」と聞き、なんとその宿で清掃の仕事を始めます。
家庭教師の仕事もホテルの部屋で実施すると、生徒だけが七海の変化に気付いてくれるのでした。
■第2章:離婚後の暮らしとリップヴァンウィンクル(真白)との出会い
浮気調査の報告のため、七海のいるホテルに安室が訪ねて来ます。
結果は浮気ではなく、旦那上京していた母と会っていました。
いわゆる典型的なマザコンで、浮気相手の恋人と名乗る男は“別れさせ屋”で、義母の仕組んだ罠?と、自らの仕掛けにも関わらずシレっと、サラッと言い放ち、七海はそれを受止めます。
また安室は金に困っているだろう七海に、代理出席のバイトを斡旋します。
七海はバイト先の式場で、同じく安室に雇われた真白(Cocco)に出逢いました。
売れない女優だと話す真白は不思議な雰囲気でしたが、七海は意気投合しSNSの連絡先を交換します。
真白はリップヴァンウィンクルというハンドル名を使っていました。
また、真白を含む式場バイトで家族を演じた5人とも仲良くなり、焼肉屋で打ち上げして、真白とサシ飲みにいきます。
七海は森田童子の「ぼくたちの失敗」を歌います。(これがめちゃくちゃ雰囲気に合っていてよかった)
そして真白がどこかに消える形で、解散となります。
その後再び安室がホテルに来て、今度は報酬月100万円のメイドの仕事があると七海に持ち掛けます。金額感に戸惑う七海ですが安室に引っ張られ承諾。
安室はホテルの従業員に金を渡し強引に清掃の仕事を辞めさせました。
七海は仕事先の立派な屋敷に連れていかれます。
留守の多い屋敷の主人の代わりに家を管理するという仕事で、
パートナーとして先日会った真白がいました。
七海は真白との同棲生活が始まります。
■第三章:リップヴァンウィンクルの「花嫁」になる
散らかった屋敷を片づけ、イモガイやクラゲなどの猛毒を持った生物の世話をし、
不登校生徒との授業もそこで行います。
明るさを取り戻す七海と、七海との共同生活を楽しむ真白はとても充実していて、
仲睦まじい生活を送ります。
ある日、真白が高熱を出して起き上がれず、マネージャーの恒吉(夏目ナナ)が屋敷に駆けつけます。
病院へ連れて行くため七海は真白を背負うと、その体の軽さに驚きます。
車中で目覚めた真白は仕事に行くと言って聞かず、這って現場へ行くことに。
七海は恒吉から、真白がAV女優であること、高額な家賃を払って屋敷を借りていることを知らされます。
七海は安室に尋ねると、 “友達が欲しい”との依頼を真白から受け、友人になってくれそうな七海を雇ったと告げます。
七海は帰宅した真白に「無駄遣いせず、自分を大切にしてほしい」と涙ながらに訴え、2人で暮らせる部屋を探そうと誘いました。
部屋探しに出掛けた帰り、ウエディングドレス店を見つけた真白は、躊躇いもなく中へ入ります。2人でドレスを試着し、店内のチャペルで指輪交換の真似をし、はしゃぎ倒して、果てはドレス姿のまま車で帰宅。
2人はドレスに、裸足のままで、家へ帰り、お酒を飲んで戯れベッドに横になると、
真白は胸のうちを吐露します。
「自分には幸せの限界がある。簡単に幸せが手に入ったら自分は壊れてしまうから、お金を払った方が楽」と。
更に、「死んでと言ったら、私と一緒に死んでくれる?」と七海に尋ねます。
七海は「はい」と答え2人は眠りにつきました。
翌朝―――
屋敷に葬儀屋と安室が来ます。
実は末期がんだった真白は1人で死ぬのが怖くて、一緒に死んでくれる人を探すために安室に1,000万円を支払っていました。
真白は猛毒を持つイモガイを手に握り死亡。
安室は2人の遺体を処理しようとすると、なんと七海が目を覚まします。
真白は七海を道連れにしなかったのです。
慌てた安室は、真白から“今夜死ぬ”との連絡があったのでやって来たとごまかし、何も知らない七海は冷たくなった真白に触れ、発狂レベルで涙に暮れます。
営まれた葬儀に、親族はいませんでした。
しかし、式場バイトで出会った“偽装家族”が全員揃い、お焼香を上げます。
葬儀が終わり真白の母の居場所が見つかるものの、お骨は受け取らないと拒まれます。
安室と七海は真白の実家へ行くと、彼女の母は昼から焼酎を飲みはじめます。
母はしばらくして語り始めます。
真白がAV女優だと聞いた母は、娘を殴って反対したこと。
それでも仕事を続けた真白と絶縁していたこと。
母は七海と安室の前で突然服を脱ぐと「人前で裸になるなんて恥ずかしいだけだ」と嗚咽。
するとそれを見た安室が泣き出し、共に裸になって泣き始めました。
七海もお酒を勢いよく飲み、全員で泣きながら真白のことを思うのでした。
■第4章:旅立ち
人生をやり直し始めた七海は、新たな部屋へ引っ越します。
安室が古い家具を提供(=粗大ごみをかき集めて)来ると、七海に真白からの給料を渡します。
安室と握手をして別れた七海は、真白が望んだ景色のいいベランダに立ち、指輪交換をした薬指に触れ、映画はおしまい。
本作におけるストーリー考察はほかの方にお任せして、
私の個人的な感想を。
まず、七海=黒木華ちゃんが神キャスティングとしか言えません。
広瀬すずや少し前なら北乃きいなどでも違う。
黒木華以外にこの役の適任者はいないのではないかと思います。
透明感に加えて、現実に本当にいそうなくらいの親近感。
笑うと可愛くエネルギーに溢れているのに、悲しそうにすると幸が薄く見えてしまうギャップというか、振り幅もスゴい(←褒めちぎってます)
最も印象に残ったシーンは、離婚を言い渡され路頭に迷うシーン。
ここがどこかわからない。
「Googleマップを開いてください」と安室は言い、
私も同じように思いました(笑)
しかし、彼女はそれができないのです。
冷静な判断が出来なくなるレベルの動揺が、画面越しに痛いほど伝わってくる、
普通“イタイもの”って目を逸らしたくなるものが多いですが、
黒木華ちゃんはグイグイ引き込まれるように観てしまいます。
「どうかこの子が救われてほしい」と感じさせる、感情移入できる器を彼女は持っているのだと感じました。
岩井俊二独特の世界観に、きれいな画も華を添えます。
ウェディングドレスでドライブ、屋敷でダンス…
脱ぎ出すお母さん、同期する何でも屋と雇われメイド。
葬式に出る、赤の他人という家族。
柔らかな画の中に浮かび上がる現代の希薄さを刻刻と伝えながら、
人は深い関係を求めていて、それに叶う物はないのだと教えてくれているように見えました。
最後にありがとうーと叫ぶシーンで涙した。
生徒からマイクを使わないと聞こえないくらい声が小さかった女の子が、
気持ち良く声が出ていて、
あぁ、この女の子は変わったのだと鮮明に確信しました。
日本映画において、稀に見る良作です。
コメント
[…] 『四月物語』の松たか子『花とアリス』の鈴木杏&蒼井優『ハルフウェイ』(プロデュース作品)の北乃きい『リップヴァンウィンクルの花嫁』の黒木華全部めちゃくちゃいい女優さんですよね。どうゆう風に引き出すんだろう。また映像美にマッチするんですよね~。久しぶりに観返したくなりました。 […]